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宝酒酒造高鍋工場

職人の技で通をうならせる蔵元もあれば、安価で良質な大衆酒を提供することで全国の愛飲家から喜ばれている酒造メーカーもある。
国道10号を宮崎方面から北上し、高鍋町に入ってしばらくのところにある宮田川を渡ると、右手に大きな工場が見えてくる。建物の上部で誇らしげに陽光を浴びているのは、酒販店でよく見るブランドのロゴマークだ。
宝酒造高鍋工場。清酒からリキュール、缶チューハイから本みりんまで製造する同社の工場は全国に六箇所あるが、ここはその中で唯一、焼酎の原酒を造っている工場である。といってもここで『純』や『よかいち』が瓶詰めされているわけではない。ここで麦や米などの原料から製造される原酒は、他工場へ転送されてさまざまにブレンドされ、商品となって店頭に並ぶのだ。ちなみに高鍋工場で造られる原酒の種類は、原料や蒸留の仕方によって異なり、ざっと20種類以上あるという。
つまり、この高鍋工場がなければ、全国に流通しているあまたのタカラ焼酎は存在しないのである。

そびえる煙突の写真

そびえる煙突は、もう使われることはない

それ自体がひとつの番地を占めている巨大な敷地の前に着く。玄関前から見上げる工場群は、煙も騒音もなく静かに稼働している。かつてここが国営のアルコール工場だったことを覚えているご年配はどれだけいるだろう。昭和27年に宝酒造へ移管され、いわば酒造りが官から民へとバトンタッチされた後も、この一角は脈々と酒造りの伝統を引き継いできた。しかし50年前の当時を語るものは、なにひとつ残っていない。工場の周囲はスポーツ広場になっていて、普段は地元の少年野球の練習用に貸しだされているそうだ。
工場長の平岡信次さんと品質管理担当チームマネージャーの藤原邦夫さんに、工場の中を案内していただいた。始めに工場の概要を聞く。敷地面積72,996平方メートルという数字は大きすぎてピンと来ないが、東京ドームの面積が46,755平方メートルというから、その広さは推して測るべしであろう。それをたった53人のスタッフで運営し、製造から貯蔵管理、出荷まで行っているという。
「ほとんど機械化されているから、工場の中を歩いてもあまり人に遭わないんですよ」と平岡工場長。たしかに今回くまなく案内していただいてもあまり遭わなかった。
三交代で24時間稼働、土日も休まず、ラインが停まるのは正月とゴールデンウイークくらいだという。タンクローリーが出入るのは朝だけという、静かな工場である。ちなみに一般工場見学は受け付けていない。

工場では乙類(本格焼酎)と甲類で建物を分けて製造している。
まず乙類の現場を見せていただいた。まず三基のサイロに詰められた原料の麦や米は、デンプンをアルファ化するために蒸す。この段階で、こちらでは焙炒製法というやりかたをしている。原料を熱風で炙るやり方で、雑味が消え、すっきりと端麗な味になるそうだ。宝酒造の特許製法である。
処理された原料は麹と合わされ一次発酵させる。ここまでが約一週間。ここで酵母が増やされる。
その後二次タンクに移される。この二次タンクで二週間ほど寝かせて発酵させる。次にこのもろみを蒸留機に入れ熱を加える。するとアルコールが上に上がり、それを冷やすとアルコールが蓄えられる。ここでは減圧蒸留機が使われる。低い温度でアルコールを蒸留するため、内側が焦げ付かない優れものだ。
でき上がった原酒はそれぞれ精製され、貯蔵の後出荷される。

原料受け入れサイロの写真

原料受け入れサイロ

次に甲類を製造している建物へ移動。原料はまず三十トン入りの原料受け入れサイロ9本に入れられる。その後蒸煮釜に入れられ、圧力を掛けてデンプンのアルファ化と殺菌が施される。次に糖化、発酵が続く。それから蒸留だ。蒸留機はウイスキー工場などでよく見られるポットスチル型である。熱を加えられ、上に上がったアルコールは水で冷やされて下のタンクに溜まる。アルコールの蒸留は二回行われ、アルコール濃度は70%にまで高められる。発酵から精製に至るまではすべてコンピュータで制御されている。

別の建物で、甲類蒸留のための連続蒸留機、通称13本の塔を見せていただいた。塔の目的は水とアルコールを分離させることである。下から蒸気を当てられると、アルコールは上に、水は下にと分けられる。それが繰り返されて分離されるうちに夾雑物も取り除かれ、よりピュアな原酒ができるのだ。塔の一本一本はそれぞれ竹の節のように幾段にも区切られ、沸点の違いでより細かな分離を行えるようになっている。一本一本役割も高さも違い、一番高い塔は25メートルもある。

こうして造られた原酒は、倉庫の樽に詰められ、静かに寝かされる。出荷するときは任意の樽を取りだしている。敷地内にある倉庫には、それぞれ違った原酒の樽がひとつの倉庫に4200個、4倉庫分眠っている。気の遠くなるような数である。
「原酒の試飲をしますか?」と案内していただいた倉庫で驚いた。まるで図書館の書庫よろしく棚にびっしりと樽が並び、巨大なリフトが生き物のように前後左右上下に動いて、目当ての樽を機械の手で掴んで持ってくる。SF映画の世界に迷い込んだようである。
「モノリフトと言います。コンピュータ制御の画面に“アドレス”を入力すれば、その樽を持ってきてくれるんですよ」
実際にやっていただいた。横14×奥行25×高さ20列の樽の中から任意の住所を入力すると、ちゃんとその樽を持ってきてくれた。いままで眠っていた原酒をグラスに取る。とたんに琥珀色の液体から華やかな薫りが立ち昇った。度数は60の二年ものである。まるでウイスキーのような琥珀色をしていた。口に含むと、強い匂いにむせ帰りそうになったが、口の中で転がしているうちに、次第にまろやかで、ちゃんと味に広がりを感じられるようになった。芳醇という単語が浮かぶ。次にそれを25度相当に水で割っていただいて再び試飲。なるほど、これは普段飲む酒に近い。
「こうやって樽ごとにさまざまな原酒があります。これをブレンドしてそれぞれの商品用に出荷するんですよ」

試験室の写真

試験室の中は実験用具が並ぶ

製造現場以外ものぞかせていただく。試験室には白衣姿の社員さんたちがビーカーを振っていて、まるで大学の研究室のようだった。
高鍋工場の自慢は、環境に負荷を掛けない生産体制である。リサイクルシステムが高度に発達しており、敷地の中心には焼酎カスを燃やす廃液プラントがある。ここで焼酎カスは燃やされて少量の灰だけになる。また水も工場の中を循環し、最後にはきれいになって宮田川へ返される。
「工場のリサイクル率は99,9%です」と胸を張った藤原さん。宝酒造の工場はすべてISOを取得している。ここ高鍋工場でも、地域と共存する工場として、環境問題には特に気を遣っているという。

工場長に酒造りに対する思いを聞いた。
「環境に優しい生産体制で、品質の優れた製品を、常に安定的に造りたいと思っています。私たちは杜氏さんがいるような蔵元ではありませんが、焼酎を愛好する人に良い酒を飲んでいただきたいという思いは変わりません」

平岡工場長の写真

平岡工場長

最後に面白い瓶を見せていただいた。『ZIPANG』の瓶の一部が透明に丸抜きされていて、のぞき込むと高鍋町の舞鶴公園の桜景色の写真が見える。オリジナルのご当地ボトルだ。
「地元密着ということです」と藤原さんはにこやかに笑った。
50年前からこの地で酒造りをしてきた宝酒造高鍋工場が、いかに地域に根づいているか、この瓶は雄弁に語っているようだ。
最新鋭の技術で大量生産をしているこの大工場もまた、まごうかたなき宮崎の「匠の蔵」だと実感した。

工場の入り口の写真

工場の入り口

工場を管理する制御室 の写真

工場を管理する制御室

原料貯蔵タンク の写真

原料貯蔵タンク

寝かされる麹 の写真

寝かされる麹

二次タンクの写真

二次タンク

減圧蒸留機の写真

減圧蒸留機

巨大な貯蔵タンクの写真

巨大な発酵タンク

連続蒸留機が並ぶ建物の内部の写真

連続蒸留機が並ぶ建物の内部

モノリフトの写真

任意の樽を間違いなく持ってくるモノリフト

樽の「番地」を記憶するコンピュータの写真

樽の「番地」を記憶するコンピュータ

樽から原酒をとりだす

樽から原酒をとりだす

テイスティングをする藤原さんの写真

テイスティングをする藤原さん

敷地内の中央にはリサイクルシステムが

敷地内の中央にはリサイクルシステムが

理想的なリサイクルを実現する廃液プラントの写真

理想的なリサイクルを実現する廃液プラント

ご当地ボトルの写真

ご当地ボトル

宝酒造株式会社 高鍋工場

  • 所在地/高鍋町蚊口浦5323
  • 問合せ/TEL.0983-23-0172

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更新日:2011年12月1日

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