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合資会社黒木本店

社屋の写真

社屋は伝統的な造りの中にモダンさがある

玄関の写真

芸術的なオブジェが並ぶ玄関

「え、宮崎からこっちに来るの?だったらあの焼酎買ってきて。“百年の孤独”!」
東京や大阪に旅行に行くとき、向こうの友達や親戚からこう言われたことはないだろうか。全国の愛飲家垂涎の的の、宮崎でしか飲めない幻の麦焼酎。そんなイメージのせいで、私たちは醸造元の「黒木本店」を、えてして話題性だけで語ってしまいがちだ。
しかし、そんな興味本位の関心は、同社のホームページを見ると吹き飛んでしまう。酒造りの理念を記したページには、こう記されているのだ。
「私たちは、酒造りは農業であると考えます。
なぜなら酒は文化であり、文化とはその土地の風土から生まれてくるもの。
まさに農業はその土地の文化の源であるからです」

高鍋町の中心部にある黒木本店を訊ねた際、その理念を実践している様子を見せていただいた。連れられて行ったのは、本社から10分ほどの距離にある町の丘陵地帯。ここに焼酎の原料を作っている畑があるという。その前にまず訪れたのが、巨大なビニールハウスのような棟が並ぶ施設。ここで有機肥料を作っているという。

焼酎廃液プラントの写真

焼酎廃液プラント

乾燥棟の写真

乾燥棟

飼料プラントの写真

飼料プラント

悲願だった焼酎粕リサイクル

もともと土に根差した酒造りを伝統とする同社では、8年前から焼酎製造の副産物を再利用した有機肥料づくりに取り組んできた。それが有機性土壌改良材「甦る大地」である。
この工場では、プラントで焼酎カスに石灰やぬかなどを加え、乾して肥料にする。乾燥棟が4つも並んでいるのはそのためだ。また別のプラントでは米ぬかにふすまを加え、飼料も作っている。どちらも水分を飛ばせばほんのわずかしか取れない。
焼酎カスを完全にリサイクルするこの施設は、黒木本店の悲願だったという。
そうしてできた「甦る大地」は、全く安全な肥料として有機農法に使われる。黒木本店では、焼酎の趣旨に賛同してくれる生産者を募り、文字通り土を改良するこの肥料を提供して、焼酎の原料を作ってもらった。なかなか理解が得られず、また結果が出るのも五年と長いため、並々ならぬ苦労があったそうだ。
しかし大地は甦った。黒木本店の社員たちと生産者が一緒になって作る「甦る大地の会」は10数名を数え、なお増え続けようとしている。農薬を使わない畑では、健康な作物がすくすくと実る。
芋畑で生産者の一人に出会った。高山栄さん、79歳。戦前から芋を作り続けてきた大ベテランだ。
「初めて黒木さんから無農薬で作ってくれないかと言われたときは驚いた。戦後の化学肥料の便利さに慣れておったから。しかしよく考えたら、昔に戻ればいいんじゃからの」
そう笑う高山さんの足元で、芋のさし苗が元気に育っている。

高山栄さんの写真

芋づくりのベテラン、高山栄さん

焼酎粕肥料「蘇る大地」で育つ元気な農作物

車は、どこを向いても畑という風景の中を走り、青々とした穂が実る一角で止まった。
二条大麦。
同社の麦焼酎の原料である。もとは佐賀県で作っていたが、地元でも作りたいと「甦る大地」の畑で6年前から栽培を始めた。高温多湿な南九州では無理と言われながら、何度も試行錯誤を重ね、ようやく実った一等麦である。
普段あまり目にすることのない麦の穂は、太陽に手を伸ばすようにまっすぐと立ち、降り注ぐ太陽を浴びていた。5月の収穫の頃になると、一面小麦色の穂が風に揺れて、それはきれいだという。
最後に訪れたのは、なんとトマトのビニールハウス。ここでも「甦る大地」で有機栽培をしており、実験的に野菜を作っているという。試作品の一部がスーパーに並ぶと、あっと言う間に売り切れるという。
作業をしていた方から、もぎたてのトマトをいただいた。
さっそくかぶりつく。…どうしたんだろう、止まらない。気がつくと30秒後にはヘタだけにしてしまった。
こんなにトマトを一心不乱に食べたのは初めてである。単に甘いとかおいしいというレベルではなく、生物の本質を味わったという表現が近いかもしれない。同社では今後、こういった野菜づくりに力を入れていくそうだ。

二条麦の穂の写真

たわわに実った二条麦の穂

一面の麦畑の写真

ハウスの隣は一面の麦畑

二条麦の写真

丹精込めて作られる二条麦

もいだばかりのトマトの写真

もいだばかりのトマトを持ってきていただく

鈴なりのトマトの写真

「甦る大地」で育った、鈴なりのトマト

かめ仕込みの原酒。ぜいたくな味見をさせてもらう

工場の中も見せていただく。白衣に着替えて入った部屋の中で見たのは、昔ながらの仕込みを行うかめが床から首だけ出し、温調機で検温されている光景。一次仕込みである。ここで酵母が培養された一次もろみが、二次仕込みで原料と合わされ、発酵して二次もろみとなり、蒸留されて原酒となる。

蒸留したての原酒を飲ませていただいた。何と言ったら良いのだろう。とてもアルコール度数が高いはずなのに、全くツンと来ない。
ぐびっと飲んで、ため息をついてしまった。これはもう既に、本格焼酎の風格を備えている。

製麹施設の近くに、ガラス張りの事務室のようなところがあった。ここでは酵母の培養を行っているという。

近代的な工場の中に、伝統の技と最先端の研究が同居している。そう思っていると、巨大な桶が目に入った、昔ながらの釜焚きの蒸気で蒸留する木桶蒸留機を復元したものだという。黒木本店の工場は不思議な空間だった。

原酒はそのまま瓶詰めされるものと、3~5年熟成されるものとがある。熟成樽が並ぶ倉庫を見せてもらった。『百年の孤独』がびっしりと並んでいる。中にはずっと眠り続け、「10年以上の孤独」に耐えている樽もあるという。
工場の一角に、商品にラベルを貼る作業スペースがあった。なんと、すべて手作業。なるほど、出荷数に限界があるのも頷ける。

昔ながらの木桶蒸留機の写真

昔ながらの木桶蒸留機

ひっそりと眠る『百年の孤独』の原酒の写真

ひっそりと眠る『百年の孤独』の原酒

包装はすべて手作業

包装はすべて手作業

カメの中で一次仕込みの写真

カメの中で一次仕込みが行われる

一次仕込みの様子の写真

一次仕込みの様子

二次仕込みの写真

二次仕込み

「焼酎とはその土地の農作物が育む文化なんです」

「代表社員」の肩書きを持つ社長、黒木敏之さんにお会いできた。
「商品のネーミングの由来?そういうのはいいから、原料の話をしましょうよ」と苦笑する姿は、とても50代には見えない。
「うちはもともと規格品を大量生産するより、独自の焼酎を作っていきたかったんです。だから独自の原料を作るために『甦る大地』で有機農法を始めたんです」
仕事の半分は原料づくりです、と当然のように言う黒木社長は、毎日のように畑に出て、作物の様子を見、生産者と語る。その視線あくまでも大地に向けられている。
「農場管理者がいる蔵元はうちくらいではないですか」とも。
「本来、酒造りというのは、はじめに農作物ありきだったはずです。焼酎とはその土地の農作物が育む文化なんです」
こんな言葉を聞くと、もう安易に「焼酎文化」などと口にできなくなってしまう。
理想を実現するために、大地を甦らせる肥料を作り、生産者を回って賛同を募り、何年もかけて作物を育てる。その姿勢があるからこそ、わざわざ愛飲家が飛行機に乗って買いに来るほどの商品が生まれるのだろう。

取材後個人的に、ある商品の味について感想を告げた。
「ああ、あれはこれから、もっとおいしくなりますよ」社長はこともなげにそう言って微笑んだ。
匠の蔵とは、まさにこういう蔵元を差す言葉に違いない。

黒木社長の写真

農業認定者の資格も持つ黒木社長

蒸留機の写真

蒸留機

製麹室の写真

製麹室

研究室の写真

開発が行われている研究室

瓶詰めの写真

瓶詰めも自社内で行う

合資会社黒木本店

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更新日:2011年12月1日

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