浅ヶ部神楽編

高千穂の夜神楽保存会三田井地区会長 甲斐かい 晃一郎こういちろう 神楽の起源とされる、天岩戸開き神話ゆかりの地、高千穂町。いにしえよりこの地に伝わる浅ヶ部神楽を60年以上も守り続け、今なおその継承と発展のために精力的に活動されている、甲斐晃一郎会長にお話を伺いました。

神楽とともに歩んだ人生

天香具山の麓に広がる浅ヶ部地区で、毎年12月の第三土曜日に奉納される浅ヶ部神楽。熊野神を祀る磐下大権現社の氏神楽として年ごとに5つの集落で持ち回り、奉仕者(ほしゃどん)と呼ばれる舞手が夜を徹して三十三番すべてを舞い明かします。


「浅ヶ部神楽はこれまで伝統にのっとって集落内の民家で行われていましたが、集落の高齢化も進んだものですから、最近は公民館で行うようになりました。」

60年以上にわたって浅ケ部神楽を支え、その移り変わりを見守ってきた甲斐会長は、第二次世界大戦中、お父様が戦死されたことをきっかけに神楽を始めたそうです。


「父と早くに死に別れてから、自分の人生は常に神様とともにあったように思います。ですから舞の所作ひとつをとっても、常に神様への奉仕の気持ちを込めて、丁寧に舞ってきました」


若くして近しい人に旅立たれてしまった悲しさを抱えながらも生きてこられたのは、神様に仕える気持ちと、それを見守ってくれる浅ヶ部の人々の温かさがあったから。それらを守り続けるため、会長はこれからもできることをやっていきたいのだそう。

被災地の復興を祈って舞う神楽

また近年では県外での神楽公演も多く行っており、特に忘れられないのが震災直後の東北で、復興を祈願して行った奉納だったそうです。

「 私たちが訪れた時は、まだ深刻な被害が残るとても悲惨な状況でした。しかし舞を奉納したところ、被災者の方達が『神楽で初めて笑顔になれました』と、晴れやかに笑ってくれて、本当に感激しました」と甲斐会長は嬉しそうに語ります。

神楽が人と人の縁をつなぎ、和を結ぶ。一人では抱えきれない苦しみや悲しみも、誰かとともにいることで、乗り越えることができる。かつての自分がそうであったように。


「私が80歳をすぎてもこうして元気に神楽ができるのは、本当に周囲の皆さんのお陰なんです」と語る甲斐会長。
神楽には人生を支え、豊かに彩る力もあるのかもしれません。

インタビュー
平成30年2月26日 高千穂神社神楽殿にて

高千穂の夜神楽保存会三田井地区会長 甲斐かい 晃一郎こういちろう 高千穂町三田井地区浅ケ部で農業を営みながら65年にもわたり、先輩からの教えや、地域の輪を大切に神楽を舞ってきた。
日々、先人から受け継いだ舞を後世に繋ぐため、尽力している

第壱回 浅ヶ部神楽編・甲斐晃一郎 第弐回 尾前神楽編・尾前秀久 第参回 祓川神楽編・西川嘉宏